左から 柴田剛(『堀川中立売』)、瀬々敬久監督(『ヘヴンズ ストーリー』)、古澤健監督(『making of LOVE』)
『堀川中立売』は、泥の中の蓮根(れんこん)を掘っているような映画だと思った。目に見えるところに、蓮根はぽこぽことあって、その上にいつか綺麗な蓮の花が咲くんだろうけど、その花はどうやら造花。自然物じゃない。神棚に供える金でできた蓮の花。 …お客さん、僕の言ってることさっぱりわかんないでしょ? (瀬々敬久監督)
劇場トーク:vol.01【『堀川中立売』をよりビンビンに観る方法】
2010年12月1日(水) @ポレポレ東中野
劇場公開から数週間、多くの途中退場者とそれを上回るリピーターを生み出し、世紀の問題作としての全貌を明らかにしつつある『堀川中立売』。
「これは一体何なのか?」という世間の皆様の声にお応えするべく、様々な方を召喚し、『堀川中立売』について語ってゆく劇場トークがはじまった。
(劇場トークのリストとスケジュールについては コチラ )
本作で堀川中立売の交差点の北東角に位置する「ステーキ屋ちゃんく」の店長として登場する古澤健監督は、今年も<青春H>シリーズ第一弾『making of LOVE』を作り上げ、劇場公開されるや絶賛の嵐を受けた。自身の映画でも積極的に個人で広報活動を行ない、『堀川中立売』にも映画としての面白さに強く共感を示していただいていた。
2010年を代表する超大作『へヴンズ ストーリー』をものした瀬々敬久監督は、学生時代を京都で過ごし、その土地の魔的な磁場についても肌で知っている映画作家である。柴田剛が敬愛する、大きな存在でもある。
そんなお二人と柴田剛が、映画を鑑賞された後のお客さんの前に登壇し、まずは景気づけにEBISUビールのロング缶で乾杯!
古澤監督が『堀川中立売』に出演したいきさつの話題から、トークはスタートした。
* * *
古澤監督(以下、古):『堀川中立売』は、映画の中で異なる時間が同時に流れていると見ることができるから、どこから見てもいいし、何回でも見られるなぁと思ったんですよ。そういう意味では、上映時間が180分あっても全然いいんじゃないかと僕は感じるんですよね。
瀬々監督(以下、瀬):古澤くんはどういう経緯で『堀川中立売』に出演したの? 君、寺田役の彼(野口雄介)を本当に蹴ってただろ!?(笑)
古澤監督:蹴ってないですよ!! 瀬々さんは本当にひどいんですよ。去年の東京フィルメックスでの『堀川中立売』のプレミア上映の時に、僕も会場で映画を見せてもらってたんですよ。それで上映後に偶然、瀬々さんと会場のロビーで一緒になったんですよ。そしたら瀬々さんが僕を見つけるなり「おい古澤!お前の芝居最高だな!」って大声で言うから、ロビーにいる人が一斉に僕の方を見て(笑)。僕のことを知ってる人は少ないし、そもそも僕は役者でもないのに…。
柴田監督(以下、柴):意地悪ですね、それ(笑)
瀬:柴田くんと古澤くんは『堀川中立売』を撮る前から知り合いだったの?
柴:僕の学生時代の先輩で、坂本一雪さんという監督がいまして。7、8年前に坂本さんが監督をしていた『本当にあった!呪いのビデオ』っていう映像作品で、僕が助監督をしてたんですよ。
古:同じ時期に僕が、坂本監督の作品で脚本を担当していて、坂本監督の家に遊びに行ったときに、紹介されたのが初対面でしたね。そこからかなり時間が経って、去年の3月に、大阪の映画館で自分の自主制作映画を上映してくれていたので、劇場まで行ったんですよ。劇場に着いて、スタッフの方に控え室を案内してもらったら、そこで柴田監督が昼寝してた(笑)。それで何年かぶりの再会して、いろいろ話しているうちに柴田監督から「来月、京都で新作の撮影があるから出ませんか?」って誘ってもらって。「じゃあ出ます!」ということで出演させてもらったんですよ。
瀬:なるほどね。僕が柴田くんと最初に会ったのは、『NN-891102』がロッテルダム映画祭に招待された時に、現地で顔を合わせたのが最初だったね?柴田監督のデビュー作『NN-891102』はフィルムで撮られた作品だったけど、“『堀川中立売』のもう少しプリミティブ版”という感じで、妙な世界が繰り広げられる映画だった。『堀川中立売』は、『NN-891102』の妙な世界観がよりポップに表現されているなぁと感じた。『おそいひと』を経て、『堀川中立売』を見て、今回の作品で遂に“柴田剛監督”になれたというのをすごく感じました。
柴:おぉー!ありがとうございます!
瀬:『おそいひと』は、主演の住田さんに寄ってるところがあるしね。そういう意味では『NN-891102』の世界観を10年かけて、監督自身のものにしたなと。去年のフィルメックスで感じた。
柴:今夜の酒はうまい酒だな…(EBISUをあおる)
瀬:今回、劇場公開版を改めて見て、僕の感想としては“泥の中の蓮根を掘っているような映画だなぁ”と思った。それぞれのシーンの繋がりが蓮根っぽいでしょ?目に見えるところに、蓮根はぽこぽことあって、その上にいつか綺麗な蓮の花が咲くんだろうけど、その蓮の花を見てみると、“どうやらコレは造花ではないか!?”みたいな印象があるというかね。自然物じゃないというか…。
古:それは柴田監督が創り出したということですか?
瀬:そうそう!神棚に供える蓮の花っぽいというかね。金でできているような。そんな印象を受けましたね。お客さん、僕の言ってることさっぱりわかんないでしょ?(笑)
柴:どうですか、お客さん!(笑)
古:僕は瀬々さんの言ってることを100%理解しているわけじゃないですけど、今のお話から伝わってきたのは、『堀川中立売』は住田さんや、モタコさんとか、被写体としてチャーミングな人がたくさん登場するじゃないですか?でも物語の中では、最後にある殺人事件が起きる。そういう部分を見ていると、柴田監督が、こういうチャーミングな人たちを使いながらも、“俺は監督としてこういう花を咲かせてみたい!”という監督自身の気概を感じたんですよ。あのシーンの結末に関しては『へヴンズ ストーリー』につながるものが在るんじゃないのかなぁと思ったんです。『へヴンズ ストーリー』だと“復習の連鎖”が描かれているじゃないですか?
柴:『へヴンズ ストーリー』でも、主人公の女の子が、ある人物を式神のように、操っていくわけでしょ。
瀬:『堀川中立売』を見てて思ったんだけど、柴田監督の中には “ネット社会への批判”というのはあるの?
柴:ないですよ!
瀬:他の作品でも柴田君は割と社会的なネタを入れるのが好きじゃない?
柴:『NN-891102』の頃から変わらないんですけど、自分の目の前にあるものや、こちらに飛び込んでくるものを吟味しながら「この題材は映画になるかな」というところから、映画のアイディアを考え始めるんですよ。
瀬:『堀川中立売』の中では“インターネット”もモチーフとして描かれているけど、我々にとってインターネットは距離が近くても、あくまでも“画面の中の世界”っていう認識があるじゃないですか。安倍晴明たちが生きていた時代の、それこそ“式神”が登場するような陰陽師の世界観って、今考えればバーチャルな世界観なんじゃないかと思うんですよ。当時の人たちにとって、“鬼”とかそういう存在が持つ意味合いというのは、自分たちが生きている世界と近いんだけど、どこかバーチャルな存在であると考えていたんじゃないかと思うんだけど。『堀川中立売』では、あえてインターネットのバーチャルな世界感と、陰陽師の世界観を重ねて描いていたのかなぁ…と思ったりしてね。柴田君としてはそういうわけではないんだ?
柴:う~ん…僕は“鬼”とか“幽霊”とか本当に存在すると思ってるんですよねぇ。
古:僕が映画を見てて感じたのは、式神もネットも決して“バーチャル”ではないと思うんですよ。全部“リアル”というか。
瀬:でも最後に元犯罪者の青年がたどる顛末というのは、他のシーンと違うわけじゃないですか? あそこは“リアル”に描かれていると感じたわけよ。他のシーンとは変えてね。あそこはリアルで勝負していると思うんだよ。あのシーンと他のシーンには対比があったと感じたね。
古:僕は、寺田のあの事件の起こし方っていうのは、物語の設定でいう15年前の事件を、違う形で反復したっていう感じなんですよね。
瀬:最後の最後にリアルな表現で、それまでの世界観を超えようとしたのかなぁと感じたね。そのシーンの前に描かれている作品の世界観も、もちろん素晴らしいと思うんだけど。柴田君は寺田の最後のシーンをリアルに描くことで、それまでの映画の世界観を超えようという意識はなかったの? 最後に寺田がさ、「この感触を忘れるな」って言うでしょ。あれはリアルな感触ということではないの? そのシーンの前もリアルだったってこと?
柴:そうですね
古:物語や内容の部分じゃなくて、『ヘヴンズストーリー』と『堀川中立売』では、どこかで通じるものがあるなって思ったんですよね。どちらの作品も、“時間”が一直線に流れるんじゃなくて、時間の流れ方が“歴史が始まる前の時間”という感じがしたんですよ。たぶん復讐という概念も、人間が歴史を持ってからできた概念だと思うんですよ。バトンみたいな感じで。人間が“歴史”を意識する以前の、例えば「古代」と呼ばれる時代というのは、現代とは違った時間の流れ方があって、そこにはきっと復讐という考え方もなかったんじゃないかと思うんですよね。そういう意味で、『堀川中立売』と『ヘヴンズストーリー』の結末は通じる部分があるし、両作品ともに、僕は“リアル”を感じたんですよ。だからお二人の映画から僕は「これから21世紀を生きて行く上で、違う時間軸を生きて行こうぜ」っていう希望を感じたんです。
* * *
__話がこれから、というところで、この日はあえなく時間切れ。登壇した三者の「ここからじゃないか!」という表情と、お客さんの「もっと話を聞きたい!」というムードが劇場に充満するなか、この続きは1月29日(土)から K’s cinema でリヴァイヴァルされる『ヘヴンズ ストーリー』の場で!ということと相なった。
▼古澤健監督情報……<青春H>『MAKING OF LOVE』 DVD ON SALE
▼瀬々敬久監督情報……『ヘヴンズ ストーリー』 1月29日(土)〜 K’s cinema(新宿)にてリバイバル他、全国劇場巡回中
★『ヘブンズ ストーリー』ブログでの瀬々監督のトーク参戦記!
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