
柴田剛(左)、山下敦弘(右)
レポート:劇場トーク:vol.03【リベンジ・オブ・ケツの穴新世界】
2010年12月11日(土)@ポレポレ東中野
山下敦弘さん(映画監督)× 柴田剛(『堀川中立売』監督)
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山下敦弘(以下、山):1年前のフィルメックスでの上映の時には観に行けなくて、今日はじめて『堀川中立売』を観ることができたんです。
柴田剛(以下、柴):康介は来てくれてたよ。(*向井康介。山下監督と大学同期で、在学中から山下監督とパートナーを組む脚本家。柴田剛とも大学の同期生。)
山:フィルメックスバージョンから、あまり変わってないの?
柴:効果音を足して、音をバージョンアップさせた。編集もだいぶ変わってる。フィルメックスの時は、上映後に「未完成みたいなものを上映するんじゃない!」て怒られてさ。 ウチのプロデューサーも「お前、『おそいひと』で味方になってくれた映画業界の人たちが一斉にサーっと引いたぞ!」って。 映画祭側は「いけいけ!」って応援してくれてたんだけど。
山:今日『堀川中立売』を初めて観たけど、面白かった。 何が面白かったか分からないけど、面白かった(笑)
柴:それ! イグザクトリー!
山:『青空ポンチ』を観た時は「剛っぽくないなぁ」と思ったんだけど、『堀川中立売』は久々に剛の映画を観たなぁって感じ。 最後に何だかよくわからないけどいい映画を観た気分になれるというか、面白い映画を観た気分になるというか。 最後の方はニヤニヤしながら観ちゃった。
柴:『NN-891102』(*柴田剛監督長編第一作)で共同監督をやったロカペニスの斉藤からは「『堀川中立売』は学生時代に剛くんが監督した映画『ケツの穴新世界』みたいだ」って言われて。 俺もその時、久しぶりに学生時代に撮った映画のことを思い出したんだけどさ。
山:大学時代に剛が監督で、俺とか周りの友達がスタッフやったり出演してた8mm作品だ。
柴:大阪の町を舞台にサバイバルゲームをするっていうだけの話で。
山:鎧みたいなプロテクターとかつけてね。
柴:そうそう。英語タイトルが “ Anal by New World ” 。 ちなみにボアダムスの曲名からの引用なんだけど。 一時期「これは絶対完成させる!」って意気込みで家の壁にも書いてた。 トラブルとかエピソードもいろいろあったなぁ。 ある時は気付かないうちにヤクザ事務所の前で撮影しちゃってて、カメラをまわしてる最中に玄関の監視カメラが作動しだして、それに気付いてみんなで逃げたり。
山:結局、完成したんだっけ?
柴:お金が続かなくて、完成はしてない。 街中で車3台くらい使って、出演者にも弾着を着けて銃撃戦の撮影してたんだけど、撮影に夢中で、いつの間にか車3台ともレッカーされてた。
山:あーそういうこともあったな(笑)
柴:車3台でレッカー代が4万5千円もかかってさ。 金がないから皆んなに払わせて。「これは長くは続かない…」と思って制作を中断したの。 話を戻すと、斉藤から「『堀川中立売』は『ケツの穴新世界』みたいだった」と言われて、久しぶりにその映画のことを思い出したんだよ。 俺の中では「なるほど…16年前に完成しなかった映画の雪辱戦をここで果たしているのか!」という感慨があってね。 ノブとも学生時代からの長い付き合いだけど、会うとやっぱりそういう気分なっちゃうね。
山:剛とは18~19歳の頃に大学で知り合って、仲良くなるきっかけが、好きなエロ本が一緒だったという。
柴:それがきっかけで仲良くなって、ある日ノブから「かっこいい先輩がいるんだよ。一緒にいこうぜ!」って誘われて、紹介してもらったのが熊切さんだったんだ(*熊切和嘉監督。『鬼畜大宴会』を大阪芸大卒業制作と作品して監督し、大きな話題になった。最新作は全国公開中の『海炭市叙景』)。 その時に熊切さんからもらった『鬼畜大宴会』のシナリオと、家にあったエロ本の「アップル写真館」とか「ニャンニャン倶楽部」の厚みが一緒だったのを覚えてる。
山:剛の部屋に行くと、さらに本格的なエロ本の「SMスナイパー」があって、「あぁ、こいつの方が本格的だ…」と思った。 『堀川中立売』にも、スカトロっぽい描写が出てきてたもんね。
柴:おぉ、わかってくれてる! 嬉しい! ニューヨーク・アジア映画祭で上映されたときにも、お客さんから「画面にすごい量の精液が出てきますね!」って言われちゃった。
山:女の人の首が抜けたとき、首のところが何かになってたじゃん? あれは何?
柴:あれはコーマン。
山:だよね。それっぽいなぁと思ってたんだけど。
柴:あれは美術スタッフが作ってくれたんだけど、ギリギリまで首の切断面をどうするか、本当にコーマンを作ってもらうか悩んでたの。 あまりにもバカバカしいネタだから、スタッフが付いてきてくれなくなったらどうしようと思って。
山:あそこ面白かったなぁ。 クローネンバーグを思い出した。 パソコンのモニターに顔が写るところとか『裸のランチ』みたいだし。
柴:あー『ビデオドローム』とかね。
山:あのシーンから、急に気持ちよくなってきた。
柴:映画って、自分のやりたいことを詰め込みたいけど、共同作業だからいろいろ悩むところもある。ノブが学生時代によく言ってて、『どんてん生活』の編集中にも言ってのが「映画として成立した」って言葉。 それがすごく印象的で。
山:そんなこと言ってた? 『どんてん生活』は最初、全然自信がなかったけど。
柴:「映画として成立できた」というフレーズがずっと引っかかってたんだ。 俺も『NN-891102』以降もずっと映画を作ってるけど、常にそこは気になってる。 で、『堀川中立売』は映画として成立してた?
山:してるよ。 途中、話が進んでるんだか戻ってるんだか分からなくなってきたところはあったけど、neco眠るの曲がガーンとかかるところで一気に盛り上がった。
柴:まさかあの娘が◯◯◯するかと。
山:唐突で気持ちよかった。 キララちゃんはよかったね。 あと住田さん。 あの二人はすごいね、目が覚める。 ところどころに出てくるキララちゃんの存在感とか、住田さんが通りがかりに寺田に言うセリフとかスゲー面白かったなぁ。 住田さんの顔面にすごく寄った画とかも『おそいひと』以来で久々に見ると衝撃的だったし(笑)
柴:ノブは前に住田さんと間違えられたことがあるんでしょ?
山:そうそう。 住田さんの顔がいっぱいプリントされた『おそいひと』Tシャツを来てたら、「山下さんのオリジナルTシャツですか?」って間違えられて。
柴:(爆笑)
山:思いっきり間違えられたから「いやいや、これは柴田剛くんの映画のTシャツで、この顔は、主演俳優の住田さんっていう脳性マヒの…」って事情を説明して。 そのやりとり、1人じゃないからね。 何人にも同じこと言われたから。
柴:似てるよね、顔。
山:似てるよね。シルエットというか、Tシャツの顔がモノクロだから特にね。
柴:『おそいひと2』で主演が急にノブになってるってアイデアどう?
山:(爆笑)
柴:予算5万くらいで、作りたいなぁそれ。
山:いやぁ〜住田さんカッコよかった。すごい力だなぁと思った。
柴:ありがとう。
山:剛はこれまでも映画の題材が強烈なものが多いじゃん。 長崎の原爆投下とか、障害者とか。 そういう題材についてちゃんと調べるよね。『NN-891102』の時は長崎まで取材しに行ってたし。
柴:映画を撮ることも大事だし、もちろん好きだけど、同時に経験もしたいんだよ。 生活をする人として。 映画を作るというきっかけが同時に自分をいろんな場所に連れてってくれるから。
山:監督として勉強のために行くというのではなくて、柴田剛個人として現場に行くっていう感じなんだね。 今回は、安倍晴明とか陰陽道については勉強したの?
柴:やってない! 今回そういうことをやらなかったのは、脚本を担当した松永がいてくれたからだけど。
山:でも学生時代も「阿倍野の磁場がヤバい」とか、そういう話好きだったよね?
柴:それはオカルトとして好きだったんだよ。
山:そういえばUFOとか幽霊の話も好きだよね。
柴:あとは『帝都大戦』。 あの映画が中学の頃から大好きで。 嶋田久作さんが演じる「加藤保憲」がかっこいいんだよ! アンチヒーローとして好きなんだ。 せっかく映画をやってるんだから、その作品のテイストを『堀川中立売』にも入れたかった。
山:本編の中で公園のグランドに五芒星を書いたり、女の子が◯◯◯したりするのは、何か調べていった上で描いてるんじゃないんだ?
柴:そうそう、思いついたからやってる。
山:でも剛の中では、理屈はあるんでしょ?
柴:うん、繋がってる。 繋がってるけど、それは俺の中にあればいい。
山:それは俺も思った。 理屈を理解しようとするとしんどいから「いろいろ考えたんだろうなぁ」と思った。 「後で剛に聞こう」って。 ストーリーや辻褄を追いかける映画ではないんだろうなぁとは思ったね。
柴:僕がそういう映画を好きだからっていうのはあるかな。 でもノブの映画も、ストーリーや辻褄がガチガチに整備された映画っていうこともないでしょ?
山:うーん、俺はそういうところでビビりだから。 クライマックスで京都の街並みが光って、前半のストーリーの配置換えみたいな一連のシーンがあってさ、なんか『AKIRA』のラストみたいになるじゃん。 あそこはかなり気持ちよかったんだけど、「俺にできるかなぁ…」と考えちゃったね。 前に『ユメ十夜』っていうオムニバス映画の一編を監督したんだけど、その作品で“夢を映像化する”ってことをやってみたんだよ。 スタッフに自分が撮りたい映像を伝えなきゃいけないのに、夢ってなかなか言葉で説明しづらいじゃない。 そもそも夢だからムチャクチャなことを書いてあるわけだし、脚本は長尾謙一郎さんと二人で書いてるしね。 辻褄のあってない不条理なことを、ベテランスタッフに説明する時の苦労ときたら…。
柴:(笑)
山:スタッフは完全に「おいおい、若い奴が何か言ってるよ」みたいなムードになってて…。
柴:ノブはそういうこと言われるの嫌だからね。
山:スタッフに「最初にヒヨコと骸骨を出したい」とか「そこにチャウチャウ犬が来て…」って説明して。「傍らにおばあちゃんが正座してて…」とか、そういうことを一生懸命夜中に説明して、みんなでやってるわけよ。ヒヨコがウンコし始めたり、おばあさんが座ってるのを見てたら、急に「俺は何をやってるんだろうか…」って冷静になって。
柴:夜中2時のテンションって感じだ。
山:そうそう、自分でも何が何だかわからなくなってきて。そこからを考えると、10分くらいの短編だったら『堀川中立売』みたいなテンションの映画を作れるかもしれないけど、それを長編で作れる剛の体力はすごいなと思った。 でも『堀川中立売』は剛が一人で考えたわけじゃないでしょ?
柴:そうだね、脚本の松永や他のスタッフからのアイディアだって当然あるよ。
山:剛自身のアイディアをスタッフの人たちにぶつけて返ってきたものも反映されてるんだよね。
柴:現場ではなるべくいろんな人のアイディアが聞けるように心がけてるけどね。 ところで『マイ・バック・ページ』の話をしてよ。いつごろ公開だっけ?
山:2011年の5月に劇場公開です。 70年代の学生運動の時代を描いたお話。 もっと当時のことを勉強しないといけないんだけど、俺は勉強が苦手なんだよね。
柴:まわりの人の話を聞いてると、ノブが得意な笑いの要素が少ないのかなぁと思ってたんだけど。
山:ないね。 まぁ原作がシリアスな話だからね。 妻夫木聡くんと松山ケンイチくんが出てるんだけど、松山くんの役がね、ちょっと面白いよ。 編集中は何十回も通しで観るから、どこが面白いかわからなくなっちゃうんだけど、何十回かに一回、面白い時がくるわけよ。 その時に松山くんの芝居で笑っちゃったんだよね。 芝居というか演じてるキャラクターの面白さで。 そこはお客さんにも笑ってもらえるかも。
ーー司会から質問:『堀川中立売』には山下作品でも常連の山本剛史さんが出演されていますけど、いかがでしたか?
山:僕の映画にもたくさん出てもらっていて、あと友人でもあるので、山本くんの出演してる作品は結構観てるんですよ。中にはちょっと違和感を覚えるような作品もありますけど、『堀川中立売』の世界観にはハマッてましたね。石井モタコくんとのバランスもすごい良かったです。クライマックスで二人の衣装がバスローブになるのは、最後にビールを呑ませたかったから?
柴:そうそう、そうなんだよ。 あのシーン見てると、ビール呑みたくならない?
山:何でバスローブなんだろうと思ったんだけど、最後のシーンのためだったんだ。
柴:それは自分の見た夢がもとになってるんだよ。 地方に出張したサラリーマンが仕事終わりにホテルの部屋でくつろいでるんだけど、ビールが呑みたくなってバスローブのままで近所にビールを買いにいく。 その途中でホテルの鍵を部屋に忘れたことを思い出すんだけど、気にせず買いに行っちゃうって夢で、すごい幸せなイメージだなぁと思ってたんだよね。
山:バスローブ姿で街を歩いているサラリーマンを想像してね。
柴:許せるなぁ…と思って。 それを映画でやりたいと思ったんだけど、フルチンにはしたくない。 撮影中に警察に怒られるの嫌でしょ。 だからGUNZEのブリーフを履かせようと。グンパンね。 二十歳すぎて、童貞ではないんだけど、実家からの小包の中には、母親が買ったGUNZEの白ブリーフが入ってるみたいな。
山:何となくモタコくんが剛に見えてさ。ブリーフ良かったね。
柴:しばらくは俺の映画にちゃんと出そうと思って。 魅力的なんだよね、ブリーフ。
山:バスローブの存在も、途中で「なんでバスローブなんだろう」とは思ったけど、結果的に面白かったよね。
柴:さすがにモタコがスゲーと思ったのは、バスローブがマントみたいにはためいてたんだよね。 空気を取り込んでる感じで。 一方、山本剛史はホテルの寝起きのサラリーマンみたいな。 「朝食バイキングに間に合わなかったぁ〜」って感じで。
山:(笑)
柴:『堀川中立売』の中のタケちゃん(山本剛史)は普段のタケちゃんに近い気がするなぁ。
山:タケちゃんはもちろん芝居をしてるんだけど、いつもより力が抜けてリラックスしてるように見えたな。 モタコくんとのバランスでそう見えたのかもしれないけど。 タケちゃんは合う人と合わない人がいると思うんだけど、モタコくんとの相性はメチャクチャ良かった。 二人が仲良しコンビみたいに見えたわけじゃないけど、ちゃんと成立してたよね。
柴:撮影の時にも、モタコはタケちゃんに、「台本読み、一緒にやってもらっていいですか?」って言って、二人で本読みとかやってたみたい。 撮影後、モタコがタケちゃんのこと、すごいリスペクトしてたからね。
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